先日見かけた、約40年務めた公務員が学歴詐称を理由に免職されたというニュース。
法務と人事の経験がある私からすると、これは争いが起きそうだと思ったのですが、それ以降続報がないようなので、本人は受け入れたようです。
たびたびテレビやニュースを騒がせる「経歴詐称」ですが、どのような場合に解雇や犯罪性が認められるものかについて今回は書いていきたいと思います。
また、これを読んでいる人は、経歴詐称に関する何らかの疑問や悩みをお持ちだと思いますが、経歴詐称のみで直ちに解雇が認められるということは多くないので、ぜひ最後まで読み進めてみてくださいね。
★目次(もくじ)
経歴詐称とは
まず、経歴詐称について簡単に見ておきましょう。
一般的に「経歴詐称」と言って考えられるのは、学歴詐称と職務経験等の詐称です。
それぞれを見てみると、
学歴詐称とは
最終学歴を偽ることで、大卒であるのに高卒としたり、高卒、専門卒、大学中退であるのに大卒などとすることです。
職歴詐称とは
今まで経験してきたとされる職歴などを偽ることです。
未経験や経験が少ないことを、あたかも経験しているように、または資格が必要な業務であるのに無資格者であったなど、経験を偽ることですね。
このようなものを「経歴詐称」と言います。
犯罪にはあたらない
この「経歴詐称」」ですが、まず気になるのは何らかの犯罪にあたるのかという点だと思います。
これについて一言で言ってしまえば、まず犯罪にはあたりません。
理由としては、経歴を詐称する行為自体にほぼ犯罪性がなく、もし犯罪に該当するケースとすれば、
例えば、民間企業に就職する際に履歴書等の文書を偽造した場合などが考えられる程度ですが、
このような行為で実際に警察に逮捕される可能性はかなり低いと考えられます。
ですので、経歴詐称が犯罪となる可能性がかなり低いということが言えます。
ただし、国家資格等、国の免許や資格にかかわるものや社会に与える影響が大きいと判断されるようなものはこの限りではないとは思います。
また、選挙の候補者の経歴詐称は、公職選挙法に定めがありますので、詐称すれば直ちに法律違反という判断にはなります。
どのような場合に解雇が妥当と判断されるのか
経歴詐称とひとことで言っても、内容には大きな違いがあると思いますが、重大な問題となり、解雇が妥当と判断できるときは以下のような場合に限られています。
それそれで見てみると、
学歴詐称
学歴詐称については、採用基準で学歴に関する条件があった場合です。
例えば、採用条件に大卒以上とある場合に、大学中退者が大卒と偽って採用されるケースなどです。
逆に言えば、学歴不問であった場合には、学歴を詐称していたとしても、直ちに重大な問題とはいえないものと考えられ、これのみを理由として解雇というのは適正性を欠くと言えます。
また、高卒という条件の場合に、大卒の人が詐称し応募した場合なども重大な学歴詐称となります。
今回の公務員の学歴詐称はこのケースだったので、最悪解雇相当もあり得る重大な詐称ですから、免職となっても不当な判断ではないものと考えられます。
職歴詐称
一方、職歴で重大な問題となりうるのは、専門性のある業務とその関連についてです。
極端ですが、例えば運転免許がない人がドライバーとして採用された場合であったり、プログラミング経験が無いにもかかわらず、プログラミング経験ありと偽って採用された場合
などでしょうか。
そもそも無資格であったり、プログラミングという専門性のある業務であるのに経験や知識がなく、まったく正常な業務の遂行が見込めないわけですから、これらは重大な詐称となりますよね。
このような場合の解雇は、妥当であると考えられます。
また悪質性が高い場合などは、求人にかかる費用等の損害賠償請求なども起こされることも考えられます。
逆に、未経験者も可としているなど、入社後にその会社の独自のノウハウやルールに従って行う業務などであれば、
このような職歴の詐称が、直ちに実際の業務に与える影響は大きくないと考えられますから、この場合に経歴詐称を理由として一方的に解雇することは不当とされる可能性が高いです。
このように、経歴詐称に対する処分内容の妥当性の判断は、
実際の詐称内容と条件、業務遂行にかかる経験や知識の程度や会社の負担度、損害程度などを比較考量し判断されるものと言えます。
経歴詐称のみを理由とした解雇(懲戒解雇)はハードルが高い
ですから、このように経歴詐称のみを理由とした解雇が適正かどうかについては、その信頼関係、企業秩序維持等にどの程度重大な影響を与えるものであるかという判断よることになります。
経歴詐称があれば、当然に解雇相当に該当するとは言えませんし、むしろ解雇相当レベルというものは多くないと言えるものと思います。
解雇(懲戒解雇)が適正であるかは裁判所の判断
また最悪、もし経歴詐称を理由に懲戒解雇されてしまった場合でも、あくまでそれは会社の判断であって、その解雇が適正であるかは別の問題です。
両者の見解が相違する場合の解雇の適正性は、裁判所でしか決着がつかないものなので、はっきりさせるには裁判所で争うしかありません。
弁護士や社労士に相談すれば、事前におよその見通しはわかるはずですので、納得がいかないものがあれば無料相談なども利用してみましょう。
自分の経歴が心配な人へ
今まで見てきたように、経歴詐称を理由として直ちに解雇できるケースは多くないです。
ですので、もし不安に思うところがあれば、詐称内容が上記にあてはまるものか客観的に考え判断してみるのが良いと思います。
そして、面接の際にそのような条件を提示されていたかなども確認してみると良いと思いますね。
元々提示されていない条件については、そもそも重大な詐称とは考えられませんからね。
再度書きますが、ポイントは、
採用の際の必要不可欠であった条件について詐称があるか
という点です。
採用面接時の職歴については、多少の誇張表現は往々にしてあり得ると思いますし、その程度であれば全く心配はないと思いますね。
以上、ご参考になれば幸いです。